カナダ ユーコン

大学と先住民族との共働

日本人にとって、カナダは自由と平等を尊重する国とのイメージがあります。

しかしカナダにおいても、先住民族の人々の土地や資源を奪い、子どもたちを家族から引き離して寄宿学校で同化教育を受けさせるなどの植民地主義的政策が行われてきました。今日、先住民族の土地権や自治権が回復しつつあり、和解への道のりをカナダは歩んでいますが、ひとたび消滅の危機に陥った言語や文化を取り戻し、人々の心身が被った深い傷を癒すことは簡単ではありません。このコーナーでは、カナダ北西部にあるユーコン大学に留学した著者が、大学と先住民族が共働して脱植民地化をめざす教育の現場を紹介します。

注意  このサイトには、人によって深い悲しみを受けたり、つらい経験を思い出したりなどの影響を与える可能性のある内容が含まれます。そのような場合は無理に読み進めず、休養をとったり信頼できる人に相談したりしてください。

(写真)ユーコンの春、最も早く咲きだす花の1つ、プレーリー・クロッカス。クロッカスといっても、日本のクロッカス(アヤメ科 / サフラン属またはクロッカス属)とは全く異なる種類で、キンポウゲ科イチリンソウ属(またはオキナグサ属)に分類される。ユニバーシティとなったユーコン大学のロゴにもなっている。

1. イントロダクション

このウェブコンテンツでは、カナダの植民地主義と先住民族に関する問題全体を俯瞰・検証するのではなく、カナダ北西部に位置するユーコン準州における事例について、留学生として実際にこの地で暮らして学び、体験したことをベースにお話します。

自己紹介のページでもお伝えしたとおり、私はもともと先住民族の問題を専門にしていたわけでもなく、人類学者でもありません。しかし、故あって2018年秋から、ユーコン準州にある大学に留学し、中でもファーストネーション(カナダの先住民族の1グループ)の学生が多く在籍する課程で一緒に学びました。この経験の中で、広い意味での先住民族問題をいわば一から知り、理解することになりました。

そして、現代の社会の一員としてのファーストネーションの人達、ファーストネーションのコミュニティとしてのありようを見てきました。大学という場において、先住民族と植民地国家とが和解に向けた学びや対話をどのように実践しようとしているのか、いかに学びを脱植民地化し先住民族の視点を取り入れた教育を実現しようとしているのか、その1つの例を、学生当事者としての体験からお話しします。

謝辞 Acknowledgements

カナダ ユーコン編「大学と先住民族との共働」の作成にあたっては、エルダーのロジャー・エリスさん、ユーコン大学のビクトリア・カスティージョ先生をはじめ、ユーコン大学の先生やスタッフ、共に学んだ友人たちからのメッセージやサポートをいただきました。私にとっては家族のように親しく、大切な人々です。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、突然引き離され、次にいつ会えるかわからないユーコンのファミリーひとりひとりの顔を思い浮かべ、感謝の念を深くしています。お名前をあげた以外にも、留学中にはたくさんの支援をいただいてかけがえのない体験と学びができました。

また、ユーコンでの体験をこのような形でまとめる機会をくださった小田博志さん(北海道大学大学院文学研究院)、監修してくださった山口未花子さん(同)には、常に適切な助言と励ましをいただきました。ありがとうございました。

Special thanks go to Roger Ellis, Dr. Antoine Mountain, Dr. Victoria Castillo, Dr. Lianne Marie Leda Charlie, Dr. Hiroshi Oda, Dr. Mikako Yamaguchi, Jewel Davis, Hideaki Matsuda, Kara Shà Tlâ Lepine, Kaylin Horassi, Judy Dean, every other friend in the Yukon and Yukon University. 

2. カナダの負の歴史と暗闇

このセクションでは、先住民族の人々が苦しむトラウマを理解することを目的に、私自身が大きな衝撃を受けたカナダの寄宿学校制度と、同じく先住民族の家族から愛する人が奪われた先住民族女性・少女の失踪/殺害事件(MMIWG )についてお伝えします。

2.1 先住民族寄宿学校(レジデンシャルスクール)制度
2.2 先住民族女性・少女の失踪/殺害事件
2.3 世代を超えたトラウマと学生のメンタルヘルス
2.4 失われた「カナダ建国記念」の祝日と新設される「真実と和解の日」

 

3. キャンパスの脱植民地化と和解

「脱植民地化」「和解」と言っても、現代の日本社会の主流派にいる人にとって身近に植民地主義の遺産を感じる場面は少ないかもしれません。ほとんどない、と言っていいでしょう。植民地政策が過去に行われていたことを知っていても、それが現代においてなお影響を及ぼしていることに気づけないのは、植民地主義の下で搾取・略奪を受け、差別・暴力を受けてきた人たちの存在が不可視化されていることが理由の1つです。

植民地問題・先住民族問題の可視化は、先住民族の人々の存在そのものへの着眼だけを言うのではありません。むしろ、主流社会の中にある無視や無知を明らかにしていくことが、脱植民地化と和解に近づくために必要だと思います。
ユーコンカレッジにおいては、植民地問題・先住民族問題が可視化され、先住民族学生にとっての障壁を取り除き、バリアフリーの環境をつくる実践が進められていたと感じます。その具体例を紹介します。

 

4. カリキュラム

ここではいよいよ、私の留学したユーコン大学のカリキュラムの実際を紹介します。

 

5. 研究倫理と脱植民地化

 

6. 先住民族と大地 ~ Stewardshipとは

ユーコンに留学して、新たに覚えた言葉のひとつがIndigenousという形容詞でした。Indigenous people(s)で先住民(族)を表します。辞書的には、Indigenousとは「原産の、土着の、先住の / 生来の」(英辞郎 on the WEB)といった意味で、文字通りにはIndigenous people(s)は「その土地にもともと住んできた人々」といった意味合いです。カナダにおけるIndigenous peoples は、固有の名称、言語、権利をもった集団です。一方、日本語では、先住民(族)と言っても原住民と言っても、どちらも固有性のない、しかもある種の偏見も含む語に感じられるのではないでしょうか。

カナダ・ユーコン編の最後に、この言葉について改めて考えてみました。

 

7. もっと知りたい人のために

 

 

執筆者 葛西奈津子 自己紹介