3.2 土地への謝意(Territory acknowledgement)
「テリトリー・アクノリジメント」は、行事やイベントなどの冒頭に述べられるもので、先住民族の土地に対する謝意・言及です。行事等が行われる施設やエリアが本来、どのような先住民族が暮らしてきた土地の上に拠っているかを明言し、話者が先住民族自身である場合は自らの土地への歓迎の意、話者が先住民族以外である場合はその土地で活動を行うに至った背景説明と謝意を示す意義があります。
ユーコン大学では、教職員の電子メールの署名の末尾に次のようなテリトリー・アクノリジメントが書かれています。
Acknowledging that we live and work in the traditional territory of the Kwanlin Dün First Nation and the Ta’an Kwäch’än Council.
(私たちはクワンリン・ダン・ファーストネーションおよびタアン・クワッチャン・カウンシルの伝統的テリトリーにおいて生活し、働いていることを認め、感謝します)
Kwanlin Dün First Nation とthe Ta’an Kwäch’än Counciは、ホワイトホース周辺を伝統的生活圏とする先住民族の名称です。
また、重要なセレモニーやイベントにはエルダーが招かれ、始まりと終わりに祈りやメッセージをいただくのがしきたりです。
私が初めてユーコンの伝統言語の1つが話されるのを聞いたのは、新年度の始まりのオリエンテーション冒頭でした。何を話しているかわからなかったこともあり、エルダーの挨拶が始まったのに気づかずに友達と話していた私は、周りの人からシーッと諭されてしまいました。エルダーのお話は特に、静かに集中して聴くことがプロトコール(規範)となっています。
このオリエンテーション冒頭の挨拶では、エルダーは伝統言語に続いて英語で「私たちの文化のしきたりに従って、新しい人々を迎え入れる儀式をします」と話し、私も目を瞑り、首を垂れてメッセージをききました。この時のメッセージの一部を紹介します。
– ここで、新しい関係・つながり(relationship, connection)を得られたこと
– 美しい国、ユーコンに生きること
– 母なる大地に感謝する
– 学生の未来の成功を祈る
-バランスを保つこと (keep balance)
-静寂を保つこと(keep quiet)
-何事も当たり前だと捉えないこと
– コミュニティへの貢献
– これらは長い間受け継がれてきた、ファーストネーションの社会心理学である
– 分かち合うこと
– 互いに助け合うこと
感謝、分かち合い、助け合いという「価値」は、留学中、いろいろな場面で教わることになりました。テリトリー・アクノリジメントもまた、同様の価値に根ざす行為として、ユーコンでは大切に踏襲されています。
テリトリー・アクノリジメントにはある程度決まったフォーマットがあり、適切に行ううえでは定型文に従うことが大事ですが、すでにこの習慣が定着しているカナダやオーストラリアなどでは、一部で形骸化しているとの批判*もあります。
*先住民族の権利を認める行動を伴わない場合は、むしろ植民地主義の結果(土地の上に建つ施設の存在など)を公認させる場合があるとも危惧されます。過去形(acknowledged)で使うとなおさら。(参考:カナダCBC indigenous What’s wrong with land acknowledgments, and how to make them better)
まずは私たちがどのような歴史をもつ土地で活動しているのかを知ったうえで、土地への感謝やそこに住んできた人たちへの敬意を込めてテリトリー・アクノリジメントを行うことから始めることが大切だと思います。
以下のリンクには、カナダ大学教員協会 (Canadian Association of University Teachers)のメンバーが作成した、各機関(大学等)で使用する適切なterritorial acknowledgementの文例がまとまっています。
・大学におけるTerritorial acknowledgementの例
https://www.caut.ca/content/guide-acknowledging-first-peoples-traditional-territory
【その他参考】
・Native Land Digital. (2021). Territory Acknowledgement. Retrieved from
https://native-land.ca/resources/territory-acknowledgement/
・âpihtawikosisân. (September 2016). Beyond territorial acknowledgements. Retrieved from
http://apihtawikosisan.com/2016/09/beyond-territorial-acknowledgments/
「私は、ヤウンモシㇼ(=北海道)がアイヌの伝統的な土地であることを認め、この土地に住むことに感謝します。」(葛西奈津子)
“I want to acknowledge that we are on the traditional territory of Ainu” by Natsuko Kasai