3.1 写真集 キャンパス内のあちこちで見る脱植民地化・和解に向けた実践
留学中にキャンパス内で目にしたいくつかのシーンを写真で紹介します。留学生にとっても、先住民族学生にとっても、日常的に先住民族の儀式や価値、世界観に触れる機会があることは、それが特別のものでなく大学という環境の一部となっていると言えるでしょう。
上の写真はカレッジ時代のもので、現在はユニバーシティのロゴのある看板に代わっています。キャンパス名のAyamgigutは、キャンパス移転の際、当時ユーコンを代表するエルダー(先住民族の識者である古老)であったアンジェラ・シドニーが命名したもの。彼女の母語であるタギッシュ(Tagish、伝統言語の1つ)で「彼女は立ち上がり、進み出た(She got up and went)」を意味します。キャンパスをユーコン川の川岸近くから現在の丘の上に移転したことを、彼女の祖先が伝統的な建物を洪水から守るために移転させた故事になぞらえた名称と言われ、同時に、このキャンパスで学んだ学生が将来、ユーコンのコミュニティを前進させ、発展させていくという期待も込められています。看板には、ユーコンの公用語である英語、フランス語に加え、8つの伝統言語で歓迎の意が表されています。
(参考)https://www.yukonu.ca/about-us/history-of-ayamdigut-campus-name
図書館には、ユーコン準州政府のアートコレクションが一定期間展示されていました。本物の先住民族アートに日常的にふれられることは、留学生にとっては得難い経験ですし、先住民族学生にとっては落ち着きや誇りを感じるようです。演題の後ろにあるタペストリー(写真左)は、ボタンブランケットと言われる儀式用の毛布です。肩にかけて踊ったり、ふだんは壁にかけて神聖な存在として扱われるそうです。図柄はクロウ(ワタリガラス)なのですが、私ははじめクモかと思ってしまい、そばにいた友人に「珍しいね」と訊いたところ、「クロウだよ! マザークロウだよ!」と驚かれてしまいました。友人は、ブリティッシュコロンビア州のタルタン・ファーストネーションで、クロウ・クランの出身です。ブランケットに装飾のためのボタンがついているのも伝統的な装飾で、踊るときにはボタンが触れ合って音が出ると教えてくれました。こうして実物を前に伝統やアートに関して学生が話しあえることも、バリアフリーの1つではないでしょうか。
昼休みの時間帯を使い、キャンパス内でさまざまな講演やディスカッションが行われていました。
「パースペクティブ・シリーズ」(Perspective series)は、ユーコン準州における先住民族ネーションによる土地権請求の礎となった歴史的文書”TTCT”(Together Today for Children Tomorrow、6.6参照)提出45周年を記念した連続トークイベント。2018年の秋から4回にわたって関係者をパネルとして迎えて行ったもので、録画アーカイブが公開されています*。貴重な証言をアーカイブして大学のウェブサイトで公開していくことは重要です。
*Perspectives series https://www.yukonu.ca/perspectives-series
私も、「何か大事なことを話している」といった程度の知識で毎回参加して、少しずつ理解しました。また他の人がどのような態度でこの問題にかかわっているかを感じ取ることもできました。
なお、イベントにはたいていスポンサーがついていて、ピザやドーナツ、スープなどの軽食が提供されました。軽食目当てであっても、イベントに人が集まることで関心が高まるということが言えるでしょう。