このサイトについて

脱植民地化のためのポータルへようこそ

 このサイトの目的は、世界各地の脱植民地化の現場(フィールド)を知るためのポータル(入口)を提供することです。今日でも植民地主義が継続して、世界のあり方を形作っています。それを見えるようにすることが、脱植民地化の第一歩と考えます。またさまざまな所で、脱植民地化の取り組みが行われています。それを知ることは、他の現場の参考になるでしょう。脱植民地化のために有益な情報を共有し、知り合い、やがては対話の場(フォーラム)となることを目指しています。

 これが学術の領域にとどまらず、また専門家だけを対象とするのではなく、具体的で現実的な資料を提供することで、市民、学生、研究者のネットワークづくりに資することができればうれしいです。

 このサイトの制作責任者・管理者は、小田博志(北海道大学大学院文学研究院)です。

 2021年度は次の3つのフィールドに関するコンテンツを公開いたしました。

ペルー アヤクチョ

 武力紛争で奪われた家族の記憶:ペルー国内で1980年から2000年にかけて起こった武力紛争により、家族を奪われたアンデス先住民女性のグループ・アンファセップ(ペルー誘拐・拘束・失踪者家族の会)が設立した記憶博物館のバーチャル化、証言集『沈黙はいつまで:痛みと勇気の証言』の日本語訳、行方不明者の遺骨発掘と再埋葬を記録したミゲル・カストロ・メヒーアさんの写真集『痛みの帰郷』を3本柱に小田博志が構成しました。

カナダ ユーコン

 大学と先住民族との共働:ユーコン大学に留学経験のある葛西奈津子さんが、現地の大学と先住民族との共働の実際、カナダに刻まれた先住民族に対する植民地主義的な暴力とその解決に向けた取り組みを報告します。

日本 サッポロ

 アイヌ・コタンのある風景と遺骨の帰還:明治初期まで現在の札幌市とその近郊にあり、開拓=植民地化によって解体され、今では忘れられているアイヌ・コタンの歴史。そのアイヌ・コタンのある風景を辿る旅ができるように、地図、写真、資料を用いながら小田博志が作成しました。

脱植民地化という課題

 コロンブスが1492年に「新大陸」に到達して以降、今日「アメリカ」と呼ばれている広大な地域は、スペイン、ポルトガルなどヨーロッパの国々の支配下に置かれることになりました。植民地主義の時代の始まりです。そこに住む先住民族は、「イディアン/インディオ」などと呼ばれ、搾取と差別と支配の対象とされることになりました。

 1700年代(18世紀)の半ばにイギリスで産業革命が起こり、工業化された国々が、原料の調達と商品の市場として植民地を獲得すべく、乗り出していきます。この植民地主義の第二の波は帝国主義の時代とも呼ばれ、イギリス、フランス、オランダなどが主導して、そこにベルギー、ドイツ、イタリア、ロシア、そして独立後のアメリカ合衆国、明治維新後の日本も加わって覇権を競いました。その結果、世界のほとんどの土地が植民地化され、その苛烈な植民地獲得競争を背景として20世紀の2つの世界大戦が引き起こされました。国家間の戦争だけを見るのではなくて、その影に先住民族に対する一方的な支配と収奪があることを忘れてはなりません。

 今日ではアジア、アフリカ、ラテンアメリカの旧植民地のほとんどが国家として独立し、植民地主義は過去の問題だとみなされることもあります。独立した国家の中に取り込まれた植民地では、いまだに先住民族に対する差別の構造は残っています。視野を広げて、産業革命の時代に、人類が自らを「自然」から切り離して、経済成長を追い求めるようになったことと植民地主義とを同じ1つの過程として見るならば、むしろ植民地主義は生活の隅々にまで行き渡り、その結果が環境破壊や気候危機として人類に返ってきていると言えるでしょう。これは「文明」を問い直すという課題です。

 この植民地主義を問い直し、乗り越えようとする取り組みを「脱植民地化」と言います。これは世界各地の多様な場所で今も実践されています。このウェブサイト「脱植民地化のためのポータル」は、その現場を見えるようにし、そこで行われていることを知り、違った現場でも役に立てることができるようにする、開かれたフォーラム(対話と学び合いの場)になることを目指しています。「ポータル」とはもともと「入口」の意味です。離れた土地や、身近な場所への「入口」を開いて、その向こうに過酷な現実だけではなく、それに立ち向かい勇気をもって生きる姿と、その背景に広がる〈いのちの風景〉と出会っていただけたら幸いです。

このウェブサイトのコンセプト

 以上の問題意識を踏まえて、次の3点をコンセプトの柱として、このウェブサイトを制作しています。

つながり
  • つながりの中からサイトのコンテンツが生み出され、またそのコンテンツがつながりを生み出す。その動きの中でサイトが育っていく。
  • 遠く離れた現場(フィールド)をつなぐ。しかし遠い所の「他人事」で終わらせず、足もとをふり返って自分との関わりに気づくように。
 共働
  • サイト管理者(小田)だけが作るのではなくて、各コンテンツの協力者、その現場の人たち、その現場とつながっている人たちと共に、対話的にコンテンツを作り上げていく。
  • 学術の領域だけに留まって、専門家だけに向けて発信するのではなく、関心のある市民、学生、当事者にも伝わるようにする。特に脱植民地化の現場の人たちは「研究対象」などではなく、同じ脱植民地化という課題に違った立場で取り組む共働者であり、また当事者としての「専門知」から学び、アドバイスを受ける。
具体性
  • 抽象的な数字や説明で終わらせず、また情報や資料だけを収録するのでもなく、具体的な現場で生きる人と知り合えるようにする。具体的な取り組み、声、生きる姿を伝える。
  • 植民地主義とは、他者を一方的に抽象的なカテゴリーに押し込めて、客体化して支配することであった。「客観的な学問」もまたそれに陥ってきたのではないか。これに対して、具体的な、顔と名前のある相手として出会い直す。
  • さらに人だけを切り取るのではなくて、その人が他の人、生きもの、環境と共に生きている風景をも伝わるようにする。

 当ウェブサイトに掲載されているすべての内容の著作権は、制作者に帰属するものか、制作者が著作権者より許諾を得て使用しているものです。

 このため、制作者および著作権者の許可無く、著作権法および関連法律、条約により定められた個人利用の範囲を超えて、複製、転載、転用等の二次利用を行うことを固く禁止します。

 複製、転載、転用等をご希望の場合は、必ず事前にお問い合わせください。

 

謝辞

 各コンテンツに協力してくださった方々への謝辞はそれぞれのページをご覧ください。

 次の2つの科学研究費補助金を主な財源として制作・運営しています。

  • 基盤研究(C)「脱植民地化過程における遺骨返還と人類学者の公共的役割」研究代表者・小田博志(研究協力者・葛西奈津子)
  • 挑戦的研究(開拓)「もの、語り、アート、宗教にみるトラウマ体験の共有と継承:ホロコーストと原爆投下」研究代表者・田中雅一(研究分担者・小田博志、研究協力者・五十川大輔)

 基盤研究(C)の研究協力者で、ユーコン編に充実したコンテンツを提供してくださったばかりではなく、ウェブサイト全体の作成についてもご尽力いただいた葛西奈津子さんに心よりお礼申し上げます。

 挑戦的研究(開拓)の代表者・田中雅一先生には予算面でのご配慮を含め、一方ならぬお世話になりました。この「トラウマ科研」研究分担者の皆さまにも研究会で貴重なご意見を賜りました。

 英語ページの翻訳を担当してくださったジェームス・レットソン・デウィーさん、ありがとうございます。

 このウェブサイトの制作を担当してくださった株式会社スペースタイムの皆様に感謝いたします。