カナダ ユーコン

大学と先住民族との共働

3.5 先住民族化に向けた教職員の自主活動

ユーコン大学では、様々な教職員の自主活動を目にしました。私もお誘いを受けて参加した1つが、” Community of Practice (CoP) on Indigenization with a focus on Teaching and Learning”(教育と学びにおいて先住民族化の実践を目指すサークル)です。
初回の集まりに参加したところ、このコミュニティは以前にも活動していて、いくつかの成果を残したあといったん休止し、新たに活動再開することになったということでした。前回の成果は最終報告書にまとめられており、その中で、今後実現を目指す先住民族化の道のりを示したイラストマップを提示しています。

出典 Indigenization Engagement Team. (2017) . ポスター(INDIGINIZATION_poster_final Version)、最終報告書(Yukon CollegeFinal Report: A Shared Journey , FINAL Report Indigenization Engagement Team Aug 25 2017

2020年1月から再スタートしたCoP では、毎月1回ランチタイムに集まって、「和解」をテーマにした意見交換会(Reconciliation Chat)を行うことになりました。教職員として、学内の脱植民地化(Decolonization)、先住民族化(Indigenization)、和解(Reconsiciation)をどのように実現するのか、忌憚なく話し合える「安全な場所」を作ろうという趣旨です。まったくの自発的な集まりですが、初回には40人ほどが参加しました。

世話人から趣旨を説明した後、4人くらいのグループに分かれ、意見交換をすることになりました。第1回目のテーマは「言葉の定義」で、私は人類学の授業で先生が日本の「部落(Buraku)」に触れたのが印象に残っていたこともあり、日本の被差別部落についてと、日本語にある知られざる差別用語について話しました。「今日の日本では、差別に由来する言葉だと知らずに日常生活で使う人がいる。それは様々なマイノリティの存在を知らないために無自覚に差別や植民地主義の態度をとってしまうことと似ているのではないか」と。

私は当時このようなことを日頃から考えていたわけではありませんでした。しかし、きっかけを与えられ、少人数で安心して話せる雰囲気をつくってもらい、そこで自分がこの話題にどう関わることができるかと集中して考えたところ、まったく思いがけず上記のような言葉が口から出てきたのです。
グループの他の人は、私の拙い英語の説明をじっと聴いたうえで、「話題を共有してくれてありがとう」と言ってくれました。このような安全な場所を作って一人一人がコミットする、ということは、このコミュニティの大切な活動の1つだと感じました。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)蔓延の危機がユーコンにも迫ってきて、同年3月に私は帰国してしまいましたが、このコミュニティの活動はオンラインでも続いていたのでしばらくの間、参加することができました。オンライン学習支援システムのmoodle上に、コミュニティ専用のダッシュボードが作られて、オンラインディスカッションやリソースの共有ができるようになっていましたし、5月にはZoomを使った読書会が開催されました。この時の課題図書”Moon on the Crusted Snow“を通して、先住民族の作家によって描かれた植民地主義やジェノサイドの寓意を読み解き、伝統的な知恵(Traditional Knowledge)と価値について学ぶことができました。自発的なコミュニティ活動といっても、メンターの役割を果たす人が複数いて、先住民族当事者のメンバーもいるので、こうした学習の機会はとても充実しています。

※本書を利用した学習のガイド:Naqvi, Erum. “Moon of the Crusted Snow.” LitCharts. LitCharts LLC, 11 Sep 2020. Web. 18 Feb 2022.

その後、このコミュニティでリソースとして紹介されたMOOCS(オンライン学習プログラム)で継続して勉強しています。資料が充実していて非常に有益なプログラムです。英語のみのサポートですが、誰でも無料で受講できますので関心ある方にはぜひおすすめします。

上記のブリティッシュコロンビア大学のMOOCで示されたリソースを1つ紹介します。
カナダ真実和解委員会(TRC)による行動要請(Call to Action)に沿った具体的なプロトコルを示したもので、個人、職場、コミュニティなどのそれぞれのレベルで実践できる「和解・脱植民地化のためのツールキット」です。「社会福祉事業において」となっていますが、様々な場面で応用できます。

2022年03月18日更新