カナダ ユーコン

大学と先住民族との共働

4.5  教育自治権を取り戻す

「学び」への異なるアプローチ Different approaches to knowing

全国インディアン協会が1972年12月にカナダ政府に提出した文書『インディアン教育はインディアンの手で(Indian Control of Indian Education)』には、「子どもたちの教育は自分たちの手で行うというわれらの権利」、すなわち教育自治は先住民族の権利であり、この権利を取り戻し教育自治の下で先住民族学習を導入すべきであると書かれています*。
ここで言うインディアンとはファーストネーションのことです。

*出典:広瀬 健一郎(2020)カナダの先住民族教育における脱植民地戦略 : ブリティッシュコロンビア州の学校教育を中心に
http://hdl.handle.net/2115/77227

先住民族学習とはどういうものでしょうか。
カナダ・アルバータ州では、教育関係者向けの手引きで次のように説明しています。

「学び」への異なるアプローチ Different approaches to knowing: 今日の世界で主流となっている教育のシステムでは、数量的な研究や検証可能な仮説など、「客観的方法」を通して得られた知識に信頼がおかれる。単位・成績証明書、「本から学んだ知識」といったものが、重要視される。一方、先住民族の伝統的な教育システムにおいては、学びとは一人一人が人生を通して果たしていく責任であるとされている。教育は、人が果たすべき責任と(人や土地との)関係性に重きを置いて行われる。

出典:Our Words, Our Ways:Teaching First Nations, Métis and Inuit Learners(p.23-24) Alberta Education, Alberta, Canada
https://education.alberta.ca/media/3615876/our-words-our-ways.pdf

このような先住民族学習、先住民族の価値にもとづく教育は、ユーコンでも、高等教育だけでなく初等教育においても実現に向けて取り組まれています。
ユーコン・カレッジのエルダー・オン・キャンパスの一人だったロジャー・エリスさんは、現在、学校で子どもたちに伝統言語や文化を教える活動に携わり、将来はファーストネーション自身の手で独自のカリキュラムをつくり、教育を自分たちの手に取り戻そうとしています。今の活動を始めた理由と進行中のプロジェクトについて聴きました。

YFNEDの活動に意欲を見せるロジャー(左)
メッセージ from Roger Ellis/ Yukon First Nation Education Directorate(YFNED) 

インタビュー音声(WAV)

(日本語抄訳)
どうして、この活動を始めたかって? (植民者政府が提供する)公立学校の教育法が嫌いだったからだよ。子どもたちは(学校や教師から)必要とする配慮や助けを得られていなかった。だから私たちは踏み出したんだ、人々を助けなければと。
今は、学校に出向いて支援をしたり、文化や伝統言語を子どもたちに教えている。子どもたちには、こう言っている。
“This is YOU. This is YOUR CULTURE. This is YOUR LANGUAGE.Don’t forget it. That’s the root you are from.”
「これがお前たちだ。お前たちの文化だ。お前たちの言語だ。忘れるんじゃない。お前たちの根っこにあるものだ」
私は子どもたちにそのことを忘れてほしくない。

最終的には、教育委員会をつくって独自の学校を設立するつもりだ。ユーコンのファーストネーション(の関係者)を皆集めて、既存のユーコン準州教育委員会から分かれるつもりだ。そうすれば私たちの人々(own people) を自ら世話することができる。

ユーコンには8つの伝統言語があるから、いずれは各言語を教えられるように、それぞれのコミュニティに学校をつくり、そこではファーストネーションの教師が教える。(遠隔地のコミュニティもあるから)Zoomも活用するだろう。

これまで私は1年間、この組織で働いてきて、ブリティッシュコロンビア州にも出向いて、すでに自前の学校制度をつくったファーストネーションを訪問もした。どこから始めるべきか、資金はどう調達すべきか、独自のカリキュラムをどうつくるべきか…学んでメモをとってきたよ。私たちが学校を設立するときには、自分たちのカリキュラムを作ることができるようにね。

この組織では現在、スタッフ、教員など約50人が働いている。多くは退職した人、校長、先生、言語の指導者もいる。エルダーも6人。目下はYukon Universityの言語部門と協働している。あらゆるものを取り込んで活動しているよ。
(2021.12.6)

写真アルバム YFNEDの活動

「YFNEDの活動は、学校で子どもたちに文化や我々の伝統言語を教えることや、問題を抱えている子どもたちを助けること。ハンドゲーム*、狩猟、肉を切り分けること、皮をなめすこと、魚やムースの肉を干すこと、テントをたてること、火を熾すこと、キャンプを設営すること、ミトンやモカシンを縫うこと、道具をつくること…こうしたことを大地の上で教えている。」(Roger Ellis)

ムース(ヘラジカ)の肉を切り分ける
魚をさばく
エルダーから学ぶ
皮なめしの工程を学ぶ
皮なめしの工程

皮をぴんと張る
ドラムをつくるロジャー
完成したドラム

ドラムづくりに取り組む若者
マシュマロ焼き
ハンドゲーム*もそれに使うドラムづくりも、ここでの学びの一部となっている。

 

なめした革を使い、ミトンやモカシンを縫う

バノック(パンの一種)を焼く
ムースの鼻はおいしい部位で、仕留めた者がエルダーに届けることがある。

写真提供 Roger Ellis & Yukon First Nation Education Directorate

*ハンドゲームについて:ハンドゲームはファーストネーションの社会に伝わる遊びで、本来は、異なるクラン(家系)に属する男性同士の争いを避けるため、狩りができない冬の間のストレス発散のようなものだと聞いたことがあります。
学生や子どもたちに教える際には、男女を問わずにみんなで楽しみます。チーム対抗で、どちらの手にスティックを隠したかを互いに当て合うだけの単純なルールですが、革を張ったドラムを鳴らし、音に合わせて体を激しく動かしていると、気分がどんどん高揚してその場にいる人が一体化した気分を味わえます。

【参考】YFNEDの活動に関するカナダ公共放送CBCニュースサイトの記事
Yukon to set up First Nations school board after historic vote (CBC News · 
New Yukon First Nations school board will ‘amplify’ on-the-land teachings in Beaver Creek(CBC News · 

2022年03月21日更新