2.2.0 先住民族女性・少女の失踪/殺害事件
先住民族女性・少女の失踪や殺害がどれほど大きな問題なのか、私がユーコンに住んでいた約1年半の間に、詳細に知ることはできませんでした。寄宿学校の問題と異なり、大学のカリキュラムでは扱われませんでした。しかし、それは起こっていないからではなく、はっきりと口に出して言うことができない、あるいは口に出して語る以外の方法で表明されてきたのかもしれません。
ホワイトホースにある先住民族文化センター「クワンリン ダン カルチュラル センター」(Kwanlin Dün はこの土地の先住民族ネーションの名称)には、大ホールの入り口横の壁面に、失われた女性たちひとりひとりを思い描いてつくられたレリーフが飾られています。
あるときこのレリーフを見て、「なぜ先住民族女性が行方不明になったり殺害されたりするのか」と、尋ねた私に、一言、「レイシズム(人種差別)」との答えが返ってきました。毎年5月5日は「赤いドレスの日」で、赤いドレスを窓の外に掲げたり、公共の建物内部につるしたりして、この問題を風化させないよう、亡くなったり行方不明になったりした女性を偲ぶ日になっています。この問題は、英語の頭文字をとってMMIWGとよばれています。私にとってMMIWGは、大きな声では語られることのない、カナダ先住民族の人々の暗闇の一つでした。
2020年5月、米国ミネソタ州ミネアポリスで起こった「ジョージ・フロイド事件」を契機に、黒人に対する差別や暴力に注目が集まり、抗議運動がBLM(Black Lives Matter)として世界中に広がっていったことで、命を奪うほどの差別・暴力が顕在化されました。同様に、カナダにおける先住民族女性や少女に対する暴力や人権の侵害は、これまでも現在も進行中で、しかも第三者には見えにくいにもかかわらず、にわかに信じられないほどの過酷なものです。