カナダ ユーコン

大学と先住民族との共働

2.2.2 人がいなくなったというのに捜査も検視もされない

なぜ、人がいなくなったり死体が発見されたりしても調べられないのでしょうか。
「家出をしただけだ、そのうち帰ってくる」「薬物やアルコールのとりすぎだ」「事件ではない、ただの自殺だ」といった人の尊厳を無視した判断。そうした筆舌に尽くしがたい状況を一言で表したのが、私の無知な質問に対する「レイシズム」という返答だったのだと今になって思います。

MMIWGの問題を、命を失った先住民族の若者7人(そのうちの何人かは遺体も失われたままの)の事件について詳しく書かれた本が翻訳出版されました。私はこの本を読んで初めて、「レイシズム」の言葉に込められた意味を理解することができました。

『命を落とした七つの羽根』タニヤ・タラガ著、
村上佳代訳、青土社(2021)

短編映画”This river”(2016年、19分)は、マニトバ近郊のRed川で、行方不明となった女性や若者の遺体を探すために川ざらえをするプロジェクトのようすを、遺族の視点で描いています。先住民族の若者や女性が行方不明になっても、警察は捜索しようとしないばかりか、家族を嘲笑し、被害者に「アルコール漬け」「売春婦」などとレッテル貼りして辱めてきました。作品によると、2014年5月、RCMP(カナダ連邦警察)は、1980年~2012年の間に1181人の先住民族女性が行方不明または殺害されたと報告したということです。”This river”はオンラインで無料で見ることができます。

“This river” https://www.nfb.ca/film/this_river/

MMIWG全国調査の報告は、カナダ先住民族の女性・少女に加えて性的少数者「2SLGBTQQIA」も同様に、カナダが行ってきたジェノサイドの対象になってきたと結論しており、国家としてのカナダに対しこうした人々の尊厳と権利の回復を求めています。その根拠として、カナダ真実和解委員会のCall to Action、国連の先住民族権利宣言(the United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples; UNDRIP)、およびカナダ人権法廷判決などをあげています。

(参考) Executive Summary, National Inquiry into MMIWG,
https://www.mmiwg-ffada.ca/wp-content/uploads/2019/06/Executive_Summary.pdf

*日本ではまだ耳慣れない言葉である2SLGBTQQIAは、Two Spirit(男性の魂と女性の魂があると感じている人。北米やインドの先住民族などの間で第3の性と受け止められている), Lesbian(レズビアン), Gay(ゲイ), Bisexual(バイセクシュアル), Transgender(トランスジェンダー),Queer(クィア), Questioning(クエスチョニング), Intersex(インターセックス)、Asexual(アセクシュアル) の頭文字をつないだ略語で、多様な性の自認のありようを示す言葉。最近ではトルドー首相がさらにこのような分類に入らない人含める意味で+を末尾につけた2SLGBTQQIA+という略称をtwitterで使い、注目されています。白人の「普通の」性指向の男性が政治や社会のシステムを仕切っている「植民地主義」を脱するには、先住民族の女性・少女・若者、および性的少数者を含めたすべての弱者を保護して行く必要があるとの表明です。

2022年03月24日更新