カナダ ユーコン

大学と先住民族との共働

7.2 参考となる書籍、映像など

タニヤ・タラガ著、村上佳代訳『命を落とした七つの羽根』青土社

「事件終了。ファイルは閉じられ、それ以上の調査はなし。」「人生で最も大切な二人の人物を、理由もなしに奪われるという、途方もなく空虚な状態」(5章p179-182)。この悲しみは、コロナ禍で日本の人も体験した別れと似ているのではないでしょうか。大切な人がいなくなること、それが人に与える大きな不安を、想像してみてください。 現代のカナダ社会で先住民族の若者が直面する問題を、ジャーナリズムの視点で描く。舞台はユーコンではなく、オンタリオ。

山口未花子 著『ヘラジカの贈り物 北方狩猟民カスカと動物の自然誌』春風社

「カナダの狩猟民カスカと共に暮らし、狩りをし、肉を解体し、食べる。そこから動物とのあるべき接し方やひとと動物の関係を考える民族誌」(本書帯より) カスカはユーコンのファーストネーションの1つ。

保苅実 著『ラディカル・オーラル・ヒストリー オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』御茶の水書房刊(2004)、岩波書店刊(2018)

オーストラリアのアボリジニと深く関わり、「我が家(カントリー)」「大地」「ドリーミング」といった世界観を示した遺業の書。

岸上伸啓 著 『イヌイット―「極北の狩猟民」のいま』中公新書

カナダ先住民族の1つ、イヌイットが経験した植民地主義の歴史と彼らの抱える問題を的確に記す。

星野道夫 著『ノーザンライツ』新潮社(1997)、新潮文庫(2000)

米国アラスカ州の先住民族のコミュニティで起こった核実験計画「プロジェクト・チェリオット」と、その反対運動を描く。

デボラ・バード・ローズ著、保苅実 訳『生命の大地―アボリジニ文化とエコロジー』平凡社

オーストラリア先住民族アボリジニにとっての土地「カントリー」と、そこに根ざす文化を描く。

ケン・ハーパー著、鈴木主悦・小田切勝子 訳
『父さんのからだを返して 父親を骨格標本にされたエスキモーの少年』早川書房

ニューヨークに連れてこられたエスキモーたちが経験した文明と野蛮。一人の少年が経験した植民地主義を語ることさえ容易ではないと感じさせられる。

Victoria Castillo, Christine Schreyer, Tosh Southwick著 
“ECHO:Ethnographic, Cultural and Historical Overview of Yukon’s First Peoples.” Institute for Community Engaged Research Press.

ユーコン・ファーストネーションの視点で歴史と文化と今日を俯瞰した書、略称ECHO。pdf版、e-book版がオンラインで無料配布されている。
・Castillo, V. E., Schreyer, C., & Southwick, T. (2020). ECHO: Ethnographic, cultural and historical overview of Yukon’s First Peoples. Institute for Community Engaged Research Press.
・EBook ISBN: 978-1-988804-32-3Print ISBN:978-1-988804-32-3
https://pressbooks.bccampus.ca/echoyukonsfirstpeople/
著者の一人Dr. Castilloは、私のカレッジでの主任教授(人類学者)。Tosh Southwickはクルアニ・ファーストネーションの影響力ある女性。

Julie Cruikshank著
“Do Glaciers Listen? : Local Knowledge, Colonial Encounters, And Social Imagination”
 Univ of British Columbia Press

クルアニ・ファーストネーションの伝統的土地において、科学的調査と伝統知・地域知に基づき、この地域特有の氷河の運動や人々の経験した歴史を描く。日本語訳が待たれる。

Angry Inuk (2016)

伝統的なアザラシ漁が、ヨーロッパとの毛皮取引によって貨幣経済に取り込まれ、イヌイットの生活を変える。野生生物保護の活動が起こると一転、毛皮の取引は禁止される。黒目がちな白い毛皮のアザラシの仔やセレブのイメージで動く国際社会を相手に、若いイヌイットがSNSを駆使して立ち上がる。護るべきは何かと問いかけてくる秀作。

Angry Inuk, Alethea Arnaquq-Baril, provided by the National Film Board of Canada

映画「Maxima」(2019)

ペルーの先住民族の女性の土地問題と訴訟を描いたフィルム。世界最大規模の採掘企業”Newmont”は、金鉱を拡大するため、Maximaの土地を含む広大な土地を購入したと主張し、Maximaが植えた作物を抜き取ったり、家畜を殺したり、Maximaやその娘に暴力をふるったりしてきた。Maximaは屈することなく、土地を守ろうとする。活動の途中でMaximaはゴールドマン環境賞 (Goldman Environmental Prize)を受賞し、ペルーと米国高等裁判所の両方で権利が認められたにも関わらず、現在もなお、圧力は続いている。

https://www.standwithmaxima.com/
*この映画は、ユーコン大学のキャンパス内にあるYukon Art Centreで開催された映画祭でも上映されました。こうした映画を、学生や市民が見るチャンスがある、ということ自体がすぐれた環境だと思います。他にも”Anthropocene“や”Sovereign Soil“など上映されました。

Trick or Treaty? (2014,1時間24分、英語字幕付)

1905年にカナダ政府と先住民族ネーションのチーフたちとの間で結ばれたTreaty9(9号条約)にまつわるドキュメンタリー。主流社会が自分たちのやり方を先住民族の人々におしつけたあからさまな植民地主義を、Treaty(条約)でなくTrick(ごまかし)ではないかと風刺。

https://dkyhanv6paotz.cloudfront.net/live/fit-in/265×413/medias/nfb_tube/images/Trick-or-Treaty.jpghttps://www.nfb.ca/film/trick_or_treaty/

もう一つの故郷 Another Home 

民間企業によって徴用された朝鮮人の遺骨を返還する活動のドキュメンタリー。

What is NAGPRA? A concise introduction to NAGPRA / 私たちの祖先を家に運ぶ:NAGPRAとは何ですか?

NAGPRA(ナグプラ)は「アメリカ先住民墳墓保護法」の略称で、米国における先住民族による遺骨返還運動を受けて1990年に成立した。この法律に基づいて、米国では先住民族の遺骨や副葬品の返還が始まっている。またこの法律をきっかけに、研究者と先住民族との信頼に基づく共働研究、地域に根差した研究が行われるようになった。

(Carrying Our Ancestors Home には日本語字幕版あり)

Decolonization Is for Everyone

脱植民地化にはだれもが責任がある 脱植民地化を通してつながる

2024年04月09日更新