カナダ ユーコン

大学と先住民族との共働

5.3 カナダ政府研究倫理オンライン講習 (TCPS 2: CORE)

研究対象として人が関わる場合、研究ライセンスの申請書には、カナダ国内の研究倫理審査委員会(REB)によってはカナダ政府による研究倫理オンライン講習(online tutorial TCPS 2: CORE =Course on Research Ethics)の修了証の添付が必要です。人を対象とした実験はもちろんのこと、インタビューのような被験者への負担が比較的小さいように思える調査であっても、また遺跡の場合は遺体が存在する可能性があるので、いずれもTCPS2 COREを受講しなければなりません。

受講は無料で、日本からもアクセスできるので、興味のある人はアカウントをつくって挑戦してみてください。用語の解説などは、アカウントなしでも見ることができます。

http://tcps2core.ca/welcome

・受講対象:研究者、およびREB (Research Ethics Board)
・所要時間 3時間以上???
・構成 8つの基本モジュール+1(カナダ先住民族に関するモジュール)
・人を扱う研究をカナダ国内で行う場合、研究ライセンスを得るために修了証の添付が求められる

研究倫理オンライン講習といえば、日本の大学等に所属している教職員の方にはきっと「ああ、あれね」と思い当たるものがあるでしょう。私も以前、大学に勤めていた際、大学独自のオンライン講習や日本学術振興会のe-ラーニング*を受講したことがあります。「捏造」「盗用」「改ざん」や論文のオーサーシップ、プライバシーの保護やインフォームドコンセントなどが解説されていて、簡単なチェックテストを行いながら数時間で修了できました。

*「研究倫理eラーニングコース(e-Learning Course on Research Ethics: eL CoRE)」https://elcore.jsps.go.jp/top.aspx

TCPS2: COREはこのような型どおりの講習とはまったく異なります。私はリサーチアシスタントになった最初の仕事として、ボスから「TCPS2: COREは今後、プロジェクトにかかわってもらうために必要だから、受けておいてね。たぶん4,5時間くらいで終わるはずだけど、ゆっくり時間かけていいよ」と言われて取り組みました。が、4,5時間だなんてとても無理です。私の場合、英語力の不足があるとはいえ、フルタイムの就業時間中(午前8時半~午後4時半)に専念しても2週間かかりました。内容が充実していて、参考となる文献やビデオなどのリンクも豊富であり、筆記問題もあるので、きちんと理解して取り組まないと先に進むことができないのです。

日本では「研究倫理」というと、不正防止に重点がおかれているようですが、このオンライン講座では、プライバシーの保護や、インフォームドコンセントなど、人権の保護に関わる解説が分厚くなっています。さらに、講座の最後にカナダの先住民族(ファーストネーション、イヌイット、メイティ)に関するモジュールがあり、先住民族の人々と共働で研究を行う際に知っておくべき文化、慣習、倫理、それに研究計画の許認可などについても概説しています。
研究ライセンスや研究倫理審査を申請する場合、その申請書に出てくる用語や、審査にあたって何が求められているかといったことが、このモジュールにかなり詳しく具体的に書かれています。たとえば、調査への参加協力者との間の覚書や、インフォームドコンセントの取り方についても、事前にそろえておくこととなっています。またファーストネーションを対象とした研究を行う場合には、エルダー(古老)または有識者(Knowledge keeper) の役割を認識することといった注意点もあります。大変参考になるので、以下のリンクからぜひ参照してみてください。

Module 9:Research Involving First Nations,Inuit & Métis Peoples of Canada https://drive.google.com/file/d/1lB6mlVIA1IebwjN9Vl9ZEReKPWiCveAg/view

私がTCPS2:COREを受講したのは、2019年の6月から7月にかけてでした。せっかく日の長い極北の夏の間、半地下の研究室に2週間こもってオンライン講習を受けることになり、そろそろ違うこともやりたいなあと思いましたが、今になって振り返るとかけがえのない体験だったと気づきます。TCPS2:COREの修了証は、その後、実際に研究プロジェクトへの参加申請にあたって何度も使うことになりました。

2022年04月28日更新