カナダ ユーコン

大学と先住民族との共働

6.3 狩猟を通して大地との関係を学ぶ

もっと小さな子どもたちにとっても、学校が休みの時期には(あるいはわざわざ学校を休ませても)、家族でキャンプしながら罠猟にでかけたり、ムースなど大きな獲物を狩りに行くのは、大事なイベントです。ハンティングを通して大地との関係を学び、獲物の分配を通して家族(広い意味での)や年長者への接し方を身に着けるのです。こんなニュース記事がありました。

CBCニュースサイト「12歳のユーコナー(Yukoner:ユーコンに住む人たちの愛称)が家族猟のリーダーを務め、はじめてのムース(ヘラジカ)を仕留める」

記事によると少女は、家族とともに小さいときからハンティングに出かけ、その作法や技術を身につけてきました。ムースを仕留めた後、少女は父親とともにムースを解体し、川辺や森をきれいにしてから獲物をキャンプに持ち帰ります。そして初めてのムースの心臓と肝臓はエルダー(同じ先住民族コミュニティの年長者)に、肉の一部は親戚のおばさんに贈ったということです。

食べる目的のために動植物を飼いならしたり栽培したりすることと、狩猟や採集の活動とは、大地との関係において、また人が成長の過程で学び身につける民族としての価値観、世界観において、異なる意味をもつことがわかります。

ムース(ヘラジカ)の蹄。毛皮や腱などを取り除き、伝統的な服飾品などに使用する。

狩猟を通した野生動物と人間との互恵的関係については、ユーコンのファーストネーションのコミュニティで猟師として修行をした人類学者・山口未花子さんの著書「ヘラジカの贈り物」(春風社)に詳しく書かれています。

同様にカナダの先住民族であるイヌイットにおいても、「大地」(nuna)は単に土地を指すのではなく、「生活世界全体」を指し、さまざまな野生動物との互恵的な生態的関係と、食べ物の分かち合いを通したイヌイットどうしの社会的な関係とによって秩序づけられた生き方をヌナにおいてすることが、イヌイットとしての生の全体の礎となる、と人類学者の大村敬一さんは述べています(「絶滅の人類学 イヌイトの「大地」の限界条件から「アンソロポシーン」時代の人類学を考える」、現代思想45(4)228-247、青土社)。

2022年03月22日更新