アイヌ語地名を尊重する
ちょっとした地名クイズをしてみましょう。
次にあげるのは、現在の札幌市にある場所の名前です。それぞれのもともとのアイヌ語地名は何だかわかりますか?
(1) 藻岩山
(2) 円山
(3) 琴似
正解は
(1) 藻岩山 ⇒ インカルㇱぺ
(2) 円山 ⇒ モイワ
(3) 琴似 ⇒ ハッサム
(ただしアイヌ語をカタカナで表記することには無理があり、また(3)は現在の行政区画としての「琴似」とハッサムが全く重なるわけではないので、これが完璧な正解というわけではありません。)
アイヌ語地名は、その土地の特徴をよく言い表しています。インカルㇱぺは「いつも眺める所」という意味で、その名の通り、この辺りでもっとも高い山で、サッポロを見渡すに最適です。
その隣の小さい山がモイワ、アイヌ語の意味は「小さい岩山」。そのモイワを和人がずらして、インカルㇱぺを藻岩山とし、モイワを円山にしてしまいました。
それからコトニとはもともとくぼ地のある所という意味で、サッポロー豊平川の扇状地の切れ目でくぼ地が多くあり、そこから伏流水が湧き出している土地を指していました。現在でいうと北海道大学の札幌キャンパスの南側から植物園、知事公館にかけての地域に当たります。それを和人が西にずらして今のJRや地下鉄の琴似駅があるあたりの地名にしたのです。それはむしろハッサム川(琴似発寒川)が流れ、かつてハッサムのコタンがあった地域です。
この地名の改変の問題は、カムイへの祈りにも影響を及ぼします。旭川市近文に生まれたアイヌのフチ(女性の長老)砂沢クラさんはそのことを語っています。クラさんの夫の友太郎さんは優れた猟師で、いつもカムイを敬い、山に入ったときにはカムイノミ(神への祈り)を欠かしませんでした。その夫とクラさんが大雪山の麓にある「勇駒別」という温泉地に行ったとき、夫が急に怒り出したのだそうです。
「勇駒別とは何のことだ。ここはリコマンベッツだぞ。違う名前でカムイノミをしても神は聞かない」(砂沢1990『ク スクッㇷ゚ オルシペ:私の一代の話』福武書店: 297)。
「夫は昔から、和人がアイヌ語の地名をおかしく変えたり、何の関係もない地名を付けているのに腹をたてていました」(砂沢1990: 298)
カムイに祈りを捧げることは、アイヌ民族にとって根本的に大事なことです。例えばインカルㇱペもカムイが鎮座する聖山として崇拝されてきました。それを「藻岩山」としたのでは、カムイに祈りが届かない――それほど名前とは大事なものなのです。後から入って来た者が勝手にいじってよいものではありません。
地名にはそれを付けた人々の歴史と知恵が刻まれています。尊重されなければなりません。できれば元に戻す、それが難しいならさしあたり併記する(「インカルㇱペ-藻岩山」のように)のがあるべき姿ではないでしょうか。