3.0 キャンパスの脱植民地化と和解 イントロダクション
「脱植民地化」「和解」と言っても、現代の日本社会の主流派にいる人にとって身近に植民地主義の遺産を感じる場面は少ないかもしれません。ほとんどない、と言っていいでしょう。植民地政策が過去に行われていたことを知っていても、それが現代においてなお影響を及ぼしていることに気づけないのは、植民地主義の下で搾取・略奪を受け、差別・暴力を受けてきた人たちの存在が不可視化されていることが理由の1つです。「Me too(ミー・トゥ)運動」がセクシュアルハラスメントや性暴力、性的少数者に対する差別を、「BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動」が人種差別を明らかにしたように、可視化されてはじめて問題がすぐそばにあることに気づくことがあります。
植民地問題・先住民族問題の可視化は、先住民族の人々の存在そのものへの着眼だけを言うのではありません。むしろ、主流社会の中にある無視や無知を明らかにしていくことが、脱植民地化と和解に近づくために必要だと思います。
それはちょうど、「障がい」の概念において「医学モデル」(障がいは個人の心身にあり、障がい者が生活を送るうえでは医学的な治療・配慮が必要)から「社会モデル」(障がいは社会の側にあり、障がい者の人権を守るためには社会的障壁を取り除くことが必要)へと視点が変えられてきたことに似ています(2006 年採択・国連「障害者権利条約」(2014年日本批准)、2011 年改正「障害者基本法」、2016年施行「障害者差別解消法」など)。
北海道大学アイヌ・先住民研究センターの北原 モコットゥナㇱさんは、シンポジウム「記号化される先住民/女性/子ども」(2021年10月10日)において、「マジョリティ中心の社会制度を変革して障壁を取り除き、マイノリティの社会参画を容易にする、といった『心のバリアフリー』の考え方が、日本のアイヌ施策、危機言語に対する取り組みにも通じるのではないか」と話されました。アイヌの文化や言語を維持・実践することが困難であるのは、マジョリティ中心社会に原因があるという視点が欠けているとの指摘です。
ユーコンカレッジにおいては、先住民族学生にとっての障壁を取り除き、バリアフリーの環境をつくる実践が進められていたと感じます。その具体例を紹介します。