カナダ ユーコン

大学と先住民族との共働

6.2 Landとは

土地との結びつきがその本質にある人々にとって、Landは物質としての土でもなければ不動産としての地面でももちろんありません。Landの意味を考えるとき、私の頭の中では合唱曲「大地讃頌」が流れ、日本語でいうなら「大地」が一番近いのではないか、と思います。しかし、現代を生きる私たちには、カナダのIndigenous peoplesがもつsteward/stewardshipの世界観を簡単に理解することはできません。里山を手入れする、農地を管理する、自然を守る、という感覚とは、重なる部分はあっても同じではありません。逆に、世界のIndigenousといわれる先住民族の人々の間には、土地との関係において共通する世界観があるようです。 

・steward / stewardship (カナダ)
・カントリーをケアする* / メンテナンスする**(オーストラリア)
・Indigenous custodianship (カナダ、他) 
 【出典】
 *Rose, Deborah B. [1996], Nourishing Terrains: Australian Aboriginal Views of Landscape and Wilderness, Australian Heritage Commission.(保苅実訳(2003), 『生命の大地』平凡社)
 **保苅実(2005),『ラディカル・オーラル・ヒストリー:オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』お茶の水書房

いずれも、「(生きている存在としての)土地・水域をケアする」という世界観が表れています。

農耕や酪農も自然の恵みを受けることには違いないのですが、ユーコンのファーストネーションの人々にとっての狩猟(hunting)や採集(gathering)(野イチゴ類やキノコ採りなど)とは、今日においても意味上の大きな違いがあります。たとえ、日々の生活に必要な食品のほとんどを、スーパーなどで購入している現代のファーストネーションの家族であっても、hunting やgatheringには格別の意味があるのです。

ヘッジホッグマッシュルーム(ハリネズミきのこ)。
クランベリー

そのことを実感させられるできごとが、留学中にありました。

秋学期最後の人類学の授業の終わりに、先生がファーストネーションの学生の一人に「あなたはこの休みにハンティングに行く?」と声をかけました。人類学の授業では、食糧獲得法の歴史として、狩猟採集から牧畜、農耕に「至る」までを学んでいて、先生の声かけは授業に関連づけた軽い挨拶なのかと思いました。私は心の中で「まさか若い学生が狩猟に行くなんてないでしょう?」と考えてしまいました。なにしろ彼女は私と同じ寮に住んでいて、よく挨拶もして知っていましたが、狩猟なんてしそうに見えませんでしたから。しかし彼女はうれしそうに「もちろん行きます」と言って、自分の家族がどのあたりに罠猟のラインをもっているなどと話し始めたのです。ふだん、同じ寮のキッチンでコーヒーを沸かしたり電子レンジを使ったりして、私と似たような暮らしをしている学生が、実家に帰ると家族と一緒にハンティングに出かけるのだと驚きましたし、先生も「冬休みは帰省するの?」といった程度の当たり前の時候の会話として、この質問をしたのだとわかりました。そして今になって、「まさかね」と考えた自分を恥ずかしく思います。

【参考文献】小田 博志, 1 いのちの網の目の平和学, 平和研究, 2021, 56 巻, p. 1-26, 公開日 2021/08/26, Online ISSN 2436-1054, https://doi.org/10.50848/psaj.56002

2022年03月18日更新