4.2.3 「FNGA インディジナス・ガバナンス入門」
このクラスの担当はリアン・チャーリー(Lianne Marie Leda Charlie)先生で、自己紹介ではノーザンタショーニを話すファーストネーションの出身、オオカミの家系(Wolf Clan)に属すと話します。当時、ハワイ大学先住民族政治学の博士課程に在籍中でした。教科書のないこの科目を、試行錯誤しながら教えてくれた、その情熱を当時も感じ取っていたつもりでしたが、今になって振り返ると、教育法(pedagogy)の点でも、旧来の欧米流・白人流を脱してファーストネーションの世界観にあう学び方と最新のITを融合させようとしていたことに気づきます。
FNGAも知らないことばかりで大変な科目でしたが、心に残る学びになりました。
学生は、私を含めて留学生が3人と、残りの約10人のほとんどがファーストネーションのようで、コミュニティキャンパスからのオンライン受講も多いクラスでした。
リアンはアーティストでもあり、授業では自身のアートビジュアルを配したパワーポイントを使ってself-positioning(自分が何者かを定位する)や、統治(governance)とは何か、権力(power)とは何かといった問いでアクティブラーニングを行ったり、歴史的文書Together Today for our Children Tomorrow (TTCT)を使って各自が詩をつくる(→6.6参照)といったオリジナル授業を行いました。Zoomの機能を使って、教室にいる生徒とオンライン受講の生徒がグループディスカッションしたり、自身も遠隔から講義したりと、ITを自在に駆使する一方、コミュニティへの活動参加を課題に掲げ、その1つとして自身の作品作りにクラスの学生や大学スタッフ、地域の人を巻き込んだりといった活動を実施しました(完成作品は6.6「ピンクムース・プロジェクト」を参照)。
リアンがこのプロジェクトの趣旨を説明してくれました。
ムースは命の象徴。ユーコンの土地で人はムースを獲ってきた。ムースには土地の境界など関係ない。ユーコンもアラスカも自由に移動して生活している。それが我々の土地のありようだ。
ムースを獲るとき、かつては弓矢しか使わなかった。それは原始的なのではなくて、むしろ高い技術があったからだ。それが我々の文化である。矢を受けて倒れたムースは、命を落としたのではない。肉も腱も皮もすべて人に利用されて生き続ける。
ムースはその目で現在も未来も見つめ続けている。この等身大のムースには輝くガラスの目を入れる。
胴体部分を紙で制作しているのは、すべての法令文書、合意文書は紙に記されているから。我々も紙を使って、ただし(法律用語をならべてそれが理解できない人には不利益があることを顧みない文書とは違い)誰にでもわかるアートで、我々の要求、精神を、見る人すべてに伝えていくことを考えた。最終的にピンクの胴体の上に、インディアン法(Indian Act) や9号条約(Treaty9)といった我々に不利益を与えた法令文書を貼っていく。
このムース制作を通して、人々の語り合いの場所を創造する。
FNGAの最終課題は、各学生がこのクラスで学んだことについて5ページずつコンテンツを制作し、ハンドブックとしてオンラインで発行するというものでした。私は寄宿学校制度に関して日英2か国で書きました。以下のリンクから読むことができます。
https://issuu.com/yukoncollegeinstructor/docs/fnga100_handbook