6.6 Together Today for our Children Tomorrow ~ユーコン土地権益請求の礎
ユーコンにおける土地権益請求(ランドクレーム)は、1902年、ホワイトホースのファーストネーションの1つ、タアン・クワッチャン(Ta’an Kwäch’än)のチーフであるジム・ボスが、部族の人々と土地の承認と保護をもとめカナダ政府に手紙を書いたのが先駆けと言われます。
革新的なできごとが起こったのは1973年2月14日。ユーコンのファーストネーションの代表団が、Together Today for Children Tomorrow(「今日を共に、子供たちの明日のために」:略称TTCTまたはTTFCT)という文書を首都オタワにある連邦政府に提出しました。これをきっかけに、土地権益請求を通したファーストネーションの権利保障の法整備や合意が具体化していくのです。TTCTが歴史的文書ground-breaking documentといわれるゆえんです。
TTCTは、ユーコン先住民族組合(Yukon Native Brotherhood)がエルダーやコミュニティの人々と綿密な相談の上で起草し、チーフのアリジャー・スミス(Elijah Smith)と各ネーションの代表者からなる一行が、ホワイトホースから列車に乗ってオタワに出向き、直接、当時のピエール・トルドー首相(現在のトルドー首相のお父さん)に手渡しました。
チーフ、アリジャー・スミスは、「わずかな一時金などと引き換えに伝統的な土地を売り渡すつもりははない。我々は土地の開発に関する政治過程に参画し正当な利益を得ることを求めている」と訴え、トルドー首相も「提案はきわめて有益な問題解決法、歴史を理解する方法として歓迎する」と答えました。
▲この歴史的な日のようすを伝えるテレビニュース。(出典:https://mappingtheway.ca/node/278)
TTCTは、それまで政府側がつくった合意案の文書とは違い、だれにでも読んでわかる、こころに届く言葉で書かれた文書でした。そこには、ユーコンのファーストネーションが経験した過去の本来の生活と、対する今日の窮状が示され、これからはカナダに住む皆にとってよりよい未来のために主流社会のカナダ人と先住民族が手を携えていこうとの呼びかけがありました。
(全文pdf)
TTCT はユーコンのみならずカナダ全土においても、政治制度上深い影響を与えることになりました。TTCTをトルドー首相に手渡したことが、今日、モダンデイ・トリーティ・プロセス(modern-day treaty process)と呼ばれる政治的承認への第一歩となったのです。政治的承認とは、(先住民族/先住権の)存在・効力・正当性を認めることです(Charlie, 2016*) 。
(参考)Council of Yukon First Nations. (2014). History of Land Claims. Retrieved from http://cyfn.ca/history/history-of-land-claims/
TTCTを自分のものに
TTCTに書かれた言葉を深く読んで自分のものとするため、ユーコンカレッジの「インディジナス・ガバナンス入門」(FNGA)ではLianne Charlie先生が「詩の発見」(Found Poetry)というアクティビティを取り入れました。TTCTに出てくる単語や語群を選び取り、TTCTに使われている順番を変えたり新たな言葉を付け加えたりせずに、新たな詩をつくるというものです(別の場所では、Lianneはこのアクティビティをテキストコラージュtext collageと呼んでいます)。
この課題のおかげで、私もTTCTの全体に目を通すことができました。詩というよりは要約のようなものしかつくることができませんでしたが…
LianneのつくったTTCTの詩(テキストコラージュ)は、次のサイトに掲載されています。
*L. Charlie. (2016). Together Today for Our Children Tomorrow: The Next Generation of Yukon Indigenous Politics – Active History
TTCTとともに message from Judy Dean
Comming soon
ピンクムース・プロジェクト ” To Talk With Others”
TTCTと同様に、ファーストネーションの思いを表現するプロジェクトがユーコン政府の支援も受けて今も続いています。その1つ、Lianneがアーティストとして、またファーストネーションのセルフガバナンス(自治)の研究者として、2018年から2019年にかけて行ったプロジェクトが”To Talk With Others”でした。発泡スチロールと紙で実物大のムース(ヘラジカ)をつくって展示するアート作品で、私たちは親しみを込めて”ピンクムース・プロジェクト”と呼んでいました。
ムースの像は、ユーコンの人々がランドクレーム(土地請求)を通して求めているもの、その精神を表現しています。
かつて、Land(大地)は人々が生きる上での法であり物語であった。ムースは食べ物や衣類を与えてくれた。今は紙に書かれた契約が生活を縛っているけれど、それはLandやムースのように頼りにできるものだろうか。 (Lianneの言葉)
ピンクの「毛皮」に近づいて見ると、TTCTやUFA(包括的最終契約、次項)の条文が印刷された紙の「コラージュ」になっています。会場入り口には、1977年に休暇でユーコンを訪れたトルドー首相とファーストネーションの代表者が行った会議の記録コピーが積まれてありました。なぜピンクなのか、なぜ3本の矢なのか、なぜ……ピンクのムースを見ながら、居合わせた人々の間で、そして自宅に帰ってから家族で、ユーコンのファーストネーションが伝統的な土地に関わる権利をどのように取り戻してきたのか、語り合い振り返る糸口を与えてくれる展示です。
今こうして写真で振り返ってみて、コピーの山の隣に赤いドレスのようなものがかけてあるのにはじめて気づきました。赤いドレスは、失踪したり殺害されたりした先住民族女性と少女の象徴です(→2.2.0参照)。
この展示はその後、ドーソンやバンクーバーなど他の都市にも巡回し、大きな話題を呼びました。
包括的最終契約(Umbrella Final Agreement:UFA)
TTCTの提出からちょうど20年後の1993年、Yukon First Nation の土地権益請求の枠組みであるUFA (Umbrella Final Agreement) が、ユーコン・インディアン審議会(Council for Yukon Indians:CYI)とカナダ政府、ユーコン準州政府の三者によって調印されました。
UFAが「包括的最終」と呼ばれるのは、土地に関する権益を将来にわたって認める契約と、自治に関する契約とを併せたものだからで、UFAは先住民族のネーションが連邦カナダ、ユーコン準州との間で結ぶ条約の形で先住権および土地に根ざす権利(title to Settlement Land)を確定するものです。この後、各ネーションごとに個別の契約を連邦カナダ、ユーコン準州と結びます。2022年1月現在、ユーコンの14のファーストネーションのうち、11のネーションが契約にサイン済みです。ただし、すべてのネーションは本来、自治権をもっているので、契約にサインをしていないからといって自治を行えないわけではありません。
UFAの第9章は「土地(land)」、第13章は「遺産(heritage)」、第14章は「水の管理(Water management)」、第19章は「補償金(compensation moneys)」、第24章は「自治政府(self-government)」について定めています。
・Umbrella Final Agreement
【参考】