ペルー アヤクチョ

武力紛争で奪われた家族の記憶

証言集『沈黙はいつまで:痛みと勇気の証言』はじめに

 1980年代にペルーで起こった武力紛争を、それに巻き込まれた当事者はどう体験したのか。その生々しい証言が『沈黙はいつまで:痛みと勇気の証言』に記録されています。

 これらの証言は、アンファセップ(ANFASEP:ペルー誘拐・拘束・行方不明者家族の会)のメンバー自身の手でまとめられました。聞き手は、母親達と同様に苦しい時代を過ごしたアンファセップ青年会の若者達が担当しました。聞き取りを実行するにあたって、若者達は証言者に対する心理的サポートなどを含めた十分な講習を受けました。インタビューは、事前に作成されたマニュアルに基づいて行われました。そのことで、個々の証言者が抱える辛い記憶を十分に記録にとどめることができました。証言者のほとんどはケチュア語話者であるため、1度書き留めたものを後にスペイン語に翻訳しました。また、それぞれの証言内容を補完するために、真実和解委員会の最終報告書や、ペルー国内外の文献からの引用を行いました。

 この証言集を通して、紛争中に起きた残虐行為や人権蹂躙の数々を1人でも多くの人々の記憶に留めることで、直接的、間接的な加害者に対する反省を促し、2度とこのような悲劇が繰り返されることのないよう、国家レベル、地域レベルでの再発防止に向けた取り組みが今後も継続されることを願っています。

 アンファセップは、この証言集がおよそ20年間におよぶ国内武力紛争の結果失われた69,000人以上もの人々の、一人一人の命に深く思いを巡らせるきっかけとなることを願っています。同様に、暴力によって何万人もの命が奪われた結果、個人、家族、村落共同体の各レベルで心理的、経済的、社会的に甚大な被害が生じ、現在においても社会が分断されたままであるという事実を、この証言集を通して理解してもらえればと思っています。

原書(スペイン語版)

 原書には41名の証言が収録されていますが、このウェブサイトにはそこから22名の証言を選んで掲載いたしました(日本語訳:五十川大輔)。

 なお、このウェブサイトに証言者の顔写真と氏名などを掲載する許可を、アンファセップを通してご本人から得ております。

 ※この証言集の初版は2007年に出版されました。その当時の聞き取りに基づいているため、政権は被害者に何の補償もしてくれないといった発言がなされています。しかし2016年には紛争被害者の補償に関する法律が成立し、遅々とした歩みのようですが、前進しているようです(詳しくはダニア・パリオナ・タルキさんのビデオメッセージ「真実和解委員会と補償プログラム」をご覧下さい)。アンファセップの人びとは、法務省と連携して村々を回って、補償内容の説明をしたり、手続きの補助を行ったりしています。国の補償委員会の委員の一人がアンファセップ現代表のアデリーナさんとのことです。

2022年03月21日更新